イジワル副社長と秘密のロマンス
つまりそれは、津口さんではなく他のモデルが“顔”になるということでもあった。
「AquaNextの広告塔は私よ! 絶対に譲らない!」
津口さんの悲痛な叫びが室内に響き渡る。聞いているだけで身体が強張ってしまった私とは逆に、樹君は口元に笑みを浮かべた。
「確かに今まではそうだったかもしれない。けど、社として新しい一歩を踏み出そうとしてる今、その広告塔ってのを新しい顔に変えるのも一つの手、だよね」
冷たく言い放っているのに、どことなく楽しそうにも聞こえてくる。
津口さんは顔色をなくしていく。唇が震えている。
「やめて。嫌よ……AquaNextという名で私の顔を思い出す。そうなりたくて頑張ってきたし、実際そうなれてると思ってる。これからも変わらず、そうあり続けたいと思ってる。そのためにはどんな努力も惜しまない」
声をも震わせ、津口さんが樹君に訴えかけている。
言葉が途切れれば、副社長室が沈黙に包まれた。
津口さんは黙って樹君を見つめている。樹君は、何度目かのため息をついた後、椅子から立ち上がった。
それが合図になったかのように、津口さんが再び口を開いた。