イジワル副社長と秘密のロマンス

つまりそれは、津口さんではなく他のモデルが“顔”になるということでもあった。


「AquaNextの広告塔は私よ! 絶対に譲らない!」


津口さんの悲痛な叫びが室内に響き渡る。聞いているだけで身体が強張ってしまった私とは逆に、樹君は口元に笑みを浮かべた。


「確かに今まではそうだったかもしれない。けど、社として新しい一歩を踏み出そうとしてる今、その広告塔ってのを新しい顔に変えるのも一つの手、だよね」


冷たく言い放っているのに、どことなく楽しそうにも聞こえてくる。

津口さんは顔色をなくしていく。唇が震えている。


「やめて。嫌よ……AquaNextという名で私の顔を思い出す。そうなりたくて頑張ってきたし、実際そうなれてると思ってる。これからも変わらず、そうあり続けたいと思ってる。そのためにはどんな努力も惜しまない」


声をも震わせ、津口さんが樹君に訴えかけている。

言葉が途切れれば、副社長室が沈黙に包まれた。

津口さんは黙って樹君を見つめている。樹君は、何度目かのため息をついた後、椅子から立ち上がった。

それが合図になったかのように、津口さんが再び口を開いた。


< 293 / 371 >

この作品をシェア

pagetop