イジワル副社長と秘密のロマンス
「さっきも言ったけど、決定は覆らない」
冷たく釘を刺しながら、樹君は副社長室のドアを開け放った。
「こっちも仕事詰まってるから、話はここまで」
言葉と態度で、もうここから出て行ってくれと告げられ、津口さんが憤りを露わにする。
しかし樹君は動じない。涼しげな顔のまま、手の平を廊下へ指し向けた。
瞬間、津口さんが殺気立ったけれど、それはすぐになりを潜めていく。瞳が潤み出す。諦めと絶望を引きずるかのように、足取り重く歩き出した。
副社長室から出て行こうとする姿を、樹君も私も黙って見つめていると、突然、携帯が鳴り響き、沈黙が破られた。
樹君は携帯を取り出し、嫌そうな顔でそれに応じる。
「……はい……ちょっと待って白濱さん。なんで俺に直接かけてくるの? 兄貴と間違えてない?」
聞こえてきた名前にどきりとした。置き手紙の一文のこともあり、私はぬいぐるみを誘拐されてしまったことを、彼に打ち明けていないのだ。罪悪感が膨らんでいく。
津口さんもはっと顔をあげ、動きを止めた。悔しそうに歯噛みをし、樹君を見ている。白濱副社長も今回の決定を下した一人なのだから無理もない。