イジワル副社長と秘密のロマンス
しかし、津口さんは思いを断ち切るように樹君から足元へと視線を落とし、廊下へと出て行った。
一段落がついたことにホッとしたその時、樹くんが電話の向こうにいる相手へと、苛立ちの声をあげた。
「千花がなに? そりゃ俺の秘書だから傍にいるけど、なんで電話を代わらなきゃならないわけ?」
自分の名前が飛び出し、先ほどよりも強く心臓が脈打つ。
「何言ってんの? 話したいとかそんな理由、俺が許可するわけないでしょ。あぁそうだ。昨日、偶然会ってお茶したとか聞いたけど、妙な偶然が続くようだったら、こっちにも考えがあるから」
思わず樹君に手が伸びた。代われるなら代わりたい。ぬいぐるみのことで不満はあるけれど、おごってもらってしまっているのも事実だ。それのお礼が言いたい。
そうは思うけど、不満そうに白濱副社長と会話を続けている樹君に、私は声をかけられなかった。言い出し難い雰囲気である。
ふと視線を感じ、廊下へと顔を向ける。三度、鼓動が強く跳ねた。
津口さんがまだそこに立っていたからだ。目を向ければ丁度、彼女も樹君から私へと視線を移動させた。
目と目が合えば、喉元に重苦しさが広がっていく。怒りや恨みの混ざった眼差しに、ぞくりと背筋が寒くなった。