イジワル副社長と秘密のロマンス
最後に私の中に嫌な余韻だけを残して、津口さんは足早に立ち去っていった。
唖然としたまま、ついさっきまで彼女が立っていた場所を見つめていたけれど、樹君の気だるげなため息で、私は我に還った。
「なんであんな面倒くさい男に好かれてるの?」
「……たぶん、白濱副社長に好かれてるのは私じゃなくて、樹君の方だと思う。私を通して樹君とやり取りがしたいのかなって」
「なにそれ。気持ち悪いんだけど」
気持ち悪いと言われてしまったけれど、私はそんな風に感じてしまっている。
直接だと相手にされない時もある。でも私を巻きこむと、樹君はちゃんと反応する。白濱副社長はそう考え、行動を起こしているような気がするのだ。
腹が立つと言っていたけれど、そんな思いとは裏腹に、樹君は気になる存在なのかもしれない。
「樹君はモテるね。性別関係なく」
「……嬉しくない。そんな変な理由で千花にちょっかい出してるとしたら、かなり不快」
言葉通り、樹君は不快感をあらわにした顔で、手の中の携帯を見つめている。その横顔がちょっぴり可愛くて、ついつい笑ってしまった。
「そう言えば、聞きそびれてたけど、昨日白濱さんとどんな話したの?」
彼からの質問に、笑みが凍りつく。