イジワル副社長と秘密のロマンス

最後に私の中に嫌な余韻だけを残して、津口さんは足早に立ち去っていった。

唖然としたまま、ついさっきまで彼女が立っていた場所を見つめていたけれど、樹君の気だるげなため息で、私は我に還った。


「なんであんな面倒くさい男に好かれてるの?」

「……たぶん、白濱副社長に好かれてるのは私じゃなくて、樹君の方だと思う。私を通して樹君とやり取りがしたいのかなって」

「なにそれ。気持ち悪いんだけど」


気持ち悪いと言われてしまったけれど、私はそんな風に感じてしまっている。

直接だと相手にされない時もある。でも私を巻きこむと、樹君はちゃんと反応する。白濱副社長はそう考え、行動を起こしているような気がするのだ。

腹が立つと言っていたけれど、そんな思いとは裏腹に、樹君は気になる存在なのかもしれない。


「樹君はモテるね。性別関係なく」

「……嬉しくない。そんな変な理由で千花にちょっかい出してるとしたら、かなり不快」


言葉通り、樹君は不快感をあらわにした顔で、手の中の携帯を見つめている。その横顔がちょっぴり可愛くて、ついつい笑ってしまった。


「そう言えば、聞きそびれてたけど、昨日白濱さんとどんな話したの?」


彼からの質問に、笑みが凍りつく。


< 297 / 371 >

この作品をシェア

pagetop