イジワル副社長と秘密のロマンス
昨日、樹君と合流したあと、「変なことされなかったよね?」とは聞かれた。
しかしそれからすぐお店に入ったため、白濱副社長のことはそれ以上話題にならなかったのだ。
「……津口さんから呼び出されて事務所に行って愚痴を聞かされたっていう愚痴を、白濱副社長から聞かされたり、それから樹君がニューヨークではどんな感じだったのかを聞いたり」
頭の片隅でちらついている二体のぬいぐるみの姿を、無理やり追い払う。動揺していることを、絶対に悟られちゃいけない。
「そんなこと聞いたの?」
「うん。自分の知らない樹君のことを知りたくて、つい。樹君はどこにいても樹君だって言ってたよ」
「まぁ、そうだろうね」
一つため息を吐いて、樹君が歩み寄ってきた。大きくて温かな手が私の頭に乗せられる。
「懐かれるのは避けられなくても、俺以外の男に簡単に懐いたりしないでよね。千花の隣りにいることも、触れることも、俺だけの特権なんだから」
頭に乗っていた手が、頬へと移動した。ちょっぴり不機嫌そうに私を見つめていたけれど、徐々に、彼の眼差しが柔らかくなっていく。
嫉妬してくれたことがくすぐったくて、言ってくれた言葉一つ一つに嬉しさを覚えてしまう。どきどきどきと、鼓動が加速していく。