イジワル副社長と秘密のロマンス
廊下に人の気配はない。今、誰もいない。
そう判断し、私は寄りかかるように樹君の胸元に手を添える。
つま先立ちをし――、そっと樹君にキスをした。
踵を床に戻す。びっくりしている樹君を見て、自分がしたことへの照れが、一気に込み上げてきた。顔が熱くなる。
「私だけの特権」
恥ずかしさを必死に堪えながら、それだけ呟いた。ふて腐れたような声になってしまった。
樹君が目線を上昇させる。口元を手で隠し、珍しく顔を赤くさせている。
「ダメ。無理」
言いながら、自ら開けた扉をばたりと閉じ、私の腰へと手を回してくる。力強く引き寄せられた。
「もっと」
甘えを含んだ声が耳元を掠め、ぴくりと肩が跳ねた。至近距離にある樹君の瞳に引きこまれていく。
樹君の中で揺れている艶めいた熱に、身体が反応してしまう。私の中にも甘い熱が広がりだす。
「樹君」
「千花」
互いの名を呼んだ唇が、ゆっくりと重なり合う。啄むだけのキスに、徐々に愛しさと欲望が混ざり合い始めれば、必然的に激しさが増していく。
じわり熱くなる。無理だと分かっているはずなのに、樹君とのその先を心と身体が望んでしまう。