イジワル副社長と秘密のロマンス
丸顔でちょっぴり童顔な、昔と変わらない可愛らしい椿の笑顔を見ていたら、尖っていた感情が徐々に剥がれ落ちていった。
私は一つため息を挟んでから、口を開いた。
「私、今の仕事が好きなの。だからまだ仕事続けたい。結婚のこともまだまだ考えたくないのに、結婚前提の袴田さん相手に恋愛なんて無理だよ……それに私は」
その先を言いかけて、辞めた。椿が憐れんだ目で私を見ていたから。
仕組まれたと感じてしまう状況に、腹立たしく感じていたけれど、全てが馬鹿らしく思えてきて、私は諦めと共に苦笑いをした。
「とっ、とにかく! 孝介先輩に、ごめんねって伝えてくれる? 仕事上で繋がりがあるから断り切れなくてこんな場を設けたのかもしれないけど。無理なものは無理だからゴメンって」
「あ。バレてた?」
「今考えたらさ、こっちに帰ってきた時に三人で盛り上がるのは、たいてい実家近くの喫茶店でだったのに。急にこんな高級ホテルのディナーに誘われて……その時に何かおかしいと気付くべきだったかも」
私を呼び出したもう一人の友人は横川孝介先輩。
大学のテニスサークルで知り合った三才年上の彼は、優しくて、物静かで、眼鏡をかけていて、真面目を絵に描いたような男性である。