イジワル副社長と秘密のロマンス
チクリと胸が痛んだ。
痛む心で、あぁやっぱりそういうことだったんだと、納得した。
「あのさ、お前こそ――……」
「樹、大好き!」
津口可菜美が細い手を伸ばして、樹君の体に横から抱きついた。
樹君は持っていたお皿からサラダを落としそうになり、彼女を不機嫌に見降ろす。
そんな表情も慣れているのだろう、津口可菜美は怯むどころか、華のある笑顔を向けつつ、もう一度樹君に抱きついた。
彼は自分のお皿と私から取り上げたお皿で両手がふさがっているため、嫌そうに身を捩っている。
樹君の表情は嫌そうに見るけど、親しい間柄であることは間違いないと思え、また胸が痛んだ。
「樹君」
強張った声で呼べば、眉間にしわを寄せたまま、彼が私を見た。
目が合ったら、笑いたくなんてないのに、なぜか口元に笑みが浮かんでしまった。
「ごめん。やっぱりいいや。さっきの話忘れて。もういいから」
「いや、違うから。待って!」
視線を落とせば、津口可菜美が勝ち誇ったような顔をしているのが見えた。
悔しさを顔に出さないよう必死に笑い顔を繕いながら、私はその場を離れた。