イジワル副社長と秘密のロマンス
勢いよく頭を下げ、そのまま樹君に背を向ける。不満げに名を呼ばれ、ぎゅっと目を閉じた。心の中で声高に謝りながら、逃げるように副社長室を後にした。
上着を羽織り、手には財布、ポケットには携帯を忍ばせ、小走りに進んでいく。
受付の前を通り、エレベーターの前に出た瞬間、見えた二つの人影にハッとする。
津口さんと星森さんだった。
足が止まりかけたけれど、急ぎの用事を頼まれていることを思い出せば、自然と速度は戻っていく。
私が近づけば、話し声が止んだ。歩み寄ってきたのが私だと分かると、星森さんは泣きそうな顔になり、津口さんはさっきと同じで鋭く睨みつけてくる。
二人のそばで足を止める。津口さんに何か言われるかなと身構えたけれど、意外にも、彼女は何も言ってこなかった。
ふんと鼻を鳴らしただけで、到着したエレベーターに乗りこんで行く。
彼女がいなくなると、星森さんが思い詰めたような顔で深いため息をついた。
「……大丈夫?」
話しかけると、星森さんは疲れを滲ませて笑った。
「迫力に気圧されちゃった。美人、怖い……三枝さんは、どこか行くの?」
「お使いしてくるね」
「そうなんだ……気をつけて」