イジワル副社長と秘密のロマンス
言葉を濁しながらの“気をつけて”に、苦笑いしてしまう。
津口さんに捕まり、本当に疲れてしまったらしい。星森さんはよたよたしながら戻っていった。
呼び出したエレベーターへと乗り込んだ。
降下する中、ポケットから携帯と名刺を取り出し、そしてそこに書かれている白濱副社長のプライベートの番号をじっと見つめてしまう。
何がなんでも、返してもらわなくちゃ。その思いが強くなっていく。
一階に到着し、大きく一歩を踏み出した。通りに出たところで、足が止まる。視線を感じたのだ。
津口さんがまだ近くにいるかもしないと辺りを見回してみたけれど、見知った顔はなかった。
この場にいない人に怯えていても仕方がない。自分を叱咤し、歩き出す。
老舗和菓子店へと向かいながら、携帯に白濱副社長のプライベート番号を打ちこんでいく。
聞こえてくるコール音をカウントしながら、大きく息を吸い込んだ。
5コール目で、相手とつながった。「はいはーい。誰?」という能天気な声にしかめっ面になってしまう。
「お世話になっております。AquaNextの三枝です」
『あっ、千花ちゃん! やっとかけてきてくれた! なかなかかけてきてくれないから、こっちからかけちゃった。あはは』
「あははじゃありません! すぐにぬいぐるみ返してください! それと、この件で樹君に電話をかけるのは止めてください!」
『藤城弟にはぬいぐるみのこと言ってないよね? 言ったのなら、ゴミ箱に――』
「言ってません!」