イジワル副社長と秘密のロマンス
ため込んでいた気持ちが爆発する。声に刺々しさが増せば増すほど、携帯を握りしめる力が強くなっていく。
『ちゃんとぬいぐるみは返すから、怒らない怒らない。今夜、暇? 千花ちゃんに予定がなければ、返せるよ。直接会って渡すね』
“会って”
もちろん会わなくては返してもらうことも出来ないのだけれど、その部分に引っかかりを覚えてしまった。樹君に黙って白濱副社長に会うことに気が引けてしまう。
「会って渡す、だけですよね」
受け取ったら、すぐにその場を離れればいい。心の中で自分にそう言い聞かせながら、私は彼の言葉を繰り返した。
『千花ちゃんがお腹空いてたら、ご飯くらいご馳走するよ』
「けっこうです!」
即座に断ると、何が面白いのか白濱副社長がまたあははと笑った。
振り回されてしまっていることに気付かされ、私は再び黙った。返してもらうまでは、絶対にこの人に振り回されちゃいけない。
深呼吸をして冷静さを取り戻してから、私は静かに問いかけた。
「どこに行けばいいですか?」
電話の向こうから、くすりと笑った声が聞こえてきた。
+ + +
「機嫌、直してもらえたようで良かった良かった」