イジワル副社長と秘密のロマンス
最後の一口をぱくりと頬張ったとき、テーブルの向こう側にいる白濱副社長がニコニコ顔で話しかけてきた。ばつの悪さを感じ、目が泳いでしまう。
電話で白濱副社長から告げられた待ち合わせの場所は、イタリアンレストランだった。
その場で待ち合わせ場所の変更を申し出たけれど、すぐに電話は切られてしまい、会話を続けることができなかった。
そのため仕方なく、仕事を終えてからそのレストランへと向かったのだ。
すべてはぬいぐるみを返してもらうため。余計な話などせず、返してもらったら、すぐに帰ればいい。
そう意気込んでいたのだが、白濱副社長の天真爛漫さに打ち勝つことはできなかった。
「勝手に店を決めちゃってごめんね」と微笑まれ、食事はちょっとと渋れば「もう席、予約してあるから」とまた微笑まれ、「付き合ってくれたら、ぬいぐるみ返すね」で止めを刺された。
席に着き最初の頃は、話しかけられても何も答えぬまま、目の前に座るその人をひたすら睨み続けていた。
けれど、店の中に漂う良い匂いに空腹が刺激され、何より、運ばれてきた料理がとてもおいしくて、次第に怒りの気持ちが薄れていってしまったのだ。
「ご馳走様でした。食べ終わってすぐになんですけど、そろそろぬいぐるみを返してください」