イジワル副社長と秘密のロマンス
機嫌を直したわけではないと主張するべく、私は再び眉間にしわを寄せる。
しかし、そんな私の態度を気にする様子もなく、白濱副社長がふふふと楽しそうに笑った。崩れない余裕さに、苛立ちが募っていく。
「デザート、何かもう一個食べようかな」
「……まだ食べられますか?」
「うん。千花ちゃんも一緒に食べようよ。遠慮しなくていいんだよ」
「けっこうです!」
「そう? じゃあ店を変えてお酒でも飲もうか」
「飲みません!」
冷めた声で言い返すと、白濱副社長は「つれないなぁ」といじけたような顔をする。
これ以上連れまわされるのはごめんだ。絶対にこの店で決着をつけたい。
けれど、どうやったらぬいぐるみをすんなり返してもらえるのか、考えても考えても、最善の手段が見えてこない。
白濱副社長が携帯を取り出した。誰かから着信があったようだ。とっさに思い浮かべてしまったのは、樹君の顔である。
私が店に到着したころ、彼から着信があった。
出た方が良いか、それとも出ない方が良いか。迷っているうちに、着信は途切れてしまい、それきり、私に彼からの着信はない。
昼間のこともある。樹君が、私の妙な態度と白濱副社長からの電話に繋がりを感じ取っていたとしたら……白濱副社長に電話をかけてくることもあるかもしれない。