イジワル副社長と秘密のロマンス
「魔法なんて、そんなこと」
「あの冷めきった男を熱くさせられる女性は、この世で千花ちゃんだけじゃないかな。しかも、あれほど物事をずばずば言う男が、変に回りくどいことをしてるってのも面白いし、それに、千花ちゃんが全く気づいてないから、めちゃくちゃやきもきしてるだろうなと思うとさらに面白い」
口元に手を当て、白濱副社長がくふふと笑う。ひとり楽しそうな様子に、自然と首が傾いていく。
「なんの話ですか?」
「んー。なんの話だろうね」
笑って誤魔化されてしまった。
「良いなぁ。俺も唯一の恋愛したいなぁ」
唯一の恋愛。その言葉が樹君と私のことを指しているのだと思えば、恥ずかしくなってくる。
もちろん自分にとって樹君はかけがえのない唯一の男性(ひと)である。
自分が樹君にとってそういう存在になれているのか不安はあるけど、そうなりたいなとは心底思っている。
白濱副社長があっと声を上げ、車道へと寄っていく。
彼の視線は空車のタクシーを捉えていた。呼び止めるべく手を上げようとしたけれど、一足先に、数メートル先で別の人たちによびとめられてしまった
上がりかけた手を下ろし、残念そうな顔で私を振り返り見る。