イジワル副社長と秘密のロマンス
「面倒くさいから、タクシー呼ぶか。今日は食事に付き合ってくれてありがとう。可愛い子と食べれて、料理も美味しかった」
「いえ。駅も近いし電車で帰れますので」
「いやいやいや。千花ちゃんを連れまわしておいてこのまま帰らせたら、藤城弟に激しく怒られる。ご機嫌を損ねて、今後の仕事に影響しちゃうと困るし」
彼が携帯を手にした。帰れる流れになったのはとても喜ばしいことなのだけれど、白濱副社長は肝心なことを忘れている。
「帰る前に、返してください!」
彼の腕を両手で掴んで引っ張り、はっきり申し出ると、ほんの一瞬きょとんとした顔をされた。
「ぬいぐるみです! 返してください。約束ですよ!」
続けて「そうだった」と声を発する。本気で忘れていたらしい。
ビジネスバックのサイドポケットの中に携帯をするりと滑り落としてから、バッグを開ける。
「……ん?……あれ……あ。やばい。置いてきた」
「えっ。お店にですか!? 戻りましょう。すぐに!」
勢いよく身を翻し、さっきまで食事をしていた店へと戻ろうとしたけれど、今度は私が強く腕を掴まれた。
「違う違う。会社。執務室……たぶん」
「……はい!?」