イジワル副社長と秘密のロマンス
意味を理解するまでの間、時間が止まった。くらりと目の前が揺れる。
「あれ? 執務室だったかな……自宅からは持ってきたはずだから……でも、どうだったかなぁ。車の中に置いてきちゃったかな」
白濱副社長は顎に手を当てて、記憶を辿っている。
ぬいぐるみがどこにあるかが分からない。行方不明だということだけで、私には大問題だというのに、彼の口振りはとても軽かった。
「たぶん執務室だな。机の上……そうだ! これから一緒に取りに行こうよ。そうしたらその場で返すから」
聞いているとだんだんと胸が苦しくなってくる。
「白濱副社長……それじゃあ、約束が違うじゃないですか」
涙が浮かんできてしまった。零れ落ちそうになるのを、歯を食いしばって必死に堪えた。目が合うと、徐々に白濱副社長が慌てだす。
「あっ、やばい……千花ちゃん、ちょっと待って。ごめんごめん。泣かないで」
白濱副社長の両手が私の肩を包み込む。近づいた彼との距離を拒絶するように、私は目の前にある胸元を両手で叩いた。今までの怒りも込めて。
「私にとってあのぬいぐるみは、本当に本当に大切なものなんです」
「そうだよね。分かってる」
「分かってないです! 本当に、本気で、大切なものなんです! 返してください! お願いです!」
「今すぐは無理だよ。持ってないもん……じゃあ取りに行く? 執務室まで一緒に」