イジワル副社長と秘密のロマンス
白濱副社長が瞳で問いかけてくる。
返してもらいたい。けれど、“これ以上、行動を共にしたくない”という気持ちが勝ってしまった。
「嫌です。これ以上、ついて行きません。今日は帰ります」
膨れながら自分の気持ちを伝えると、困った顔をされた。
「分かったよ。でも誓って言うけどさ、わざと忘れてきたわけじゃないからね。うっかりしてた。本当にごめん」
本心なのかもしれないけれど、彼の言葉は軽く聞こえてしまう。信じ切ることが出来ず疑いの眼差しをむけると、白濱副社長が「ごめんね」と繰り返し、私の頭を撫でてきた。
昼間の樹君とのやり取りを思い出せば、自然と身体が動いた。すぐにその手を押し返すと、白濱副社長の切なげなため息が聞こえてきた。
「次会ってもらう時は、土下座しなくちゃだね」
「そんなことして欲しいわけじゃないです。ちゃんと返してくれたら、それでいいんです」
白濱副社長がはっと顔を上げ、機敏に私の前から離れて行く。通りかかったタクシーを停めてくれた。
「今日はごめんね。近いうちに、絶対返すよ。約束する」
改めて向き合った。白濱副社長の真剣な表情から自分の足元へと視線を落とし、私はこくりと頷き返した。
「お願いします……でももう、次は二人では会いませんから」
言い終えると、自分の中で覚悟が生まれた。
こうして会うことは、樹君に対して後ろめたさでいっぱいである。
樹君に同席してもらうには、黙っていたことも含めて、これまでのことを説明しなくちゃいけない。
どう思われてしまうか正直怖いけれど、後ろめたさを抱えながら樹君と顔を合わせるのはもう嫌である。
「土下座するんじゃなくて、させられる気がするけど……それも仕方ないかぁ」
「ご連絡お待ちしております」
にこりと笑ってから、私は白濱副社長に向かって頭を下げた。