イジワル副社長と秘密のロマンス

それぞれの思い



「めちゃくちゃ混んでたね」


出てきたばかりの真新しいパン屋を、星森さんが振り返り見た。

お昼休みの時間であり、オープンしたてでもあり、そしてここ最近メディアで取り上げられていることもあり、店内は人でごった返している。

数秒前まで自分があの中で人にもみくちゃにされていたと思えば、「そうだね」と同意する声にも疲労感が滲んでしまう。

それでも、購入したバケットのサンドイッチが、樹君と話す切っ掛けになるというのなら、あんな人ごみ大したことはない。

今日は朝から、樹君の機嫌が悪いのだ。

話しかけても素っ気ないから、彼のご機嫌斜めの原因は、私だと思って間違いないと思う。

昨日、白濱副社長と別れた後、一度樹君に電話を入れたのだけど、それに彼は出てくれなかった。

朝になっても折り返しの電話をくれることはなく、そのまま彼とは会社で顔を合わせることとなったのだけれど、素っ気ない態度に拍車がかかっていて、泣きたくなってしまった。

そんな中、オープンしたてのパン屋の話を社長と星森さんがしていて、そこのバケットサンドが美味しいと聞いた樹君が「食べてみたいかも」とぽつりと呟いたのだ。

その瞬間、買ってこなければという使命感に駆られてしまった。


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