イジワル副社長と秘密のロマンス
「……ぬいぐるみ?」
「当たり。持ってきた?」
私は樹君と向き合った。深く頭を下げる。
「ごめんなさい」
顔を上げるとすぐに、樹君の澄んだ瞳に捕らえられた。
言いたいことがあるのは顔を見ればわかるけど、彼は何も言ってこない。私の言葉を待っている。
「樹君に聞いてもらいたいことがあるの……その、ぬいぐるみのことなんだけど……実は」
気持ちを落ち着かせながら、静かに話し出したその時、勢いよく副社長室のドアが開いた。
「ちょっと待ってください!」
制止しようとする星森さんを振り切って、細長い人影が室内に入ってくる。津口可菜美さんの鬼気迫る表情に、私は目を大きくする。言葉を失った。
「突然ごめんなさい。樹、私の話を聞いてほしいの」
星森さんは申し訳なさそうな顔をこちらに向けている。ため息を吐いてから、樹君が私の腕をそっと引いた。後ろへと後退した私の目の前へと移動する。
「こっちも今忙しいんだけど。後にして」
「忙しいって……」
津口さんが鼻で笑った。室内には私と樹君しかいないのだから、大した話などしていないだろうと思われても仕方がない。