イジワル副社長と秘密のロマンス


「……ぬいぐるみ?」

「当たり。持ってきた?」


私は樹君と向き合った。深く頭を下げる。


「ごめんなさい」


顔を上げるとすぐに、樹君の澄んだ瞳に捕らえられた。

言いたいことがあるのは顔を見ればわかるけど、彼は何も言ってこない。私の言葉を待っている。


「樹君に聞いてもらいたいことがあるの……その、ぬいぐるみのことなんだけど……実は」


気持ちを落ち着かせながら、静かに話し出したその時、勢いよく副社長室のドアが開いた。


「ちょっと待ってください!」


制止しようとする星森さんを振り切って、細長い人影が室内に入ってくる。津口可菜美さんの鬼気迫る表情に、私は目を大きくする。言葉を失った。


「突然ごめんなさい。樹、私の話を聞いてほしいの」


星森さんは申し訳なさそうな顔をこちらに向けている。ため息を吐いてから、樹君が私の腕をそっと引いた。後ろへと後退した私の目の前へと移動する。


「こっちも今忙しいんだけど。後にして」

「忙しいって……」


津口さんが鼻で笑った。室内には私と樹君しかいないのだから、大した話などしていないだろうと思われても仕方がない。


< 318 / 371 >

この作品をシェア

pagetop