イジワル副社長と秘密のロマンス
「お願い、樹。もう一度、チャンスをちょうだい」
「決定は覆さないって言ったはずだけど」
「考え直して。後輩に譲りたくないのよ。これからだっていうのに……この時のためにずっと頑張ってきたのに……どうしたら考え直してくれるの?」
「この決定は俺だけの意見で下された訳じゃない。うちの社長の意見でもあるし、白濱さんの意見でもあるってことを忘れないで欲しいんだけど」
樹君が眉根を寄せると、津口さんが歯がゆい気持ちを抑えきれないように、大きく一歩前に出た。
「それでも! 樹の言葉には力がある! 樹が考え直してくれたら、私に味方してくれたら、変えられる!」
「俺を買いかぶりすぎだから。もう諦めて、進むべき新たな道を模索した方が良いんじゃない?」
「……樹」
表情が消えていく。瞳から涙が一粒流れ落ちていった。
俯いた彼女を見て私は動揺してしまったけれど、樹君は表情を崩さなかった。冷めた目で彼女を見つめ続けている。
「理解した? だったらそろそろ出てってくれる?」
樹君が要求すると、星森さんが津口さんに歩み寄る。腕を後ろからそっと掴んだ。
しかし、部屋から出るよう優しく促されても、津口さんはその場から動こうとしなかった。
星森さんの手を大きく振り払い、津口さんが顔をあげる。笑みを浮かべた。小さく笑い声をあげたあと、私を睨みつけてくる。狂気を感じ、ぞくりと背筋が寒くなった。