イジワル副社長と秘密のロマンス
周囲の客が彼らからそっと距離を置く。怖がっている。
強張った表情のスタッフが恐る恐る話しかけようとした時、樹君の連れであるあの若い眼鏡の男性が、気軽な足取りで二人の間に割って入っていった。
男性に慌てた様子などなく、少しの言葉だけで場の収拾が図られたのは明らかだった。
樹君と津口可菜美。気が強そうな者同士が付き合っているのだから、こういった喧嘩は初めてではないだろう。
その度に男性が間に入っては、二人をなだめているのかもしれない。きっといつものことなのだろう。
「あのキザな感じの男に、ずっと絡まれてましたよね? 手ぶらで帰って来てしまうほど、嫌な思いをさせられたのでしょう?」
この人は樹君と私の様子をそんな風に思いながら “ずっと”眺めていたのかと、袴田さんへの気持ちがゆっくりと冷めていく。
「見た目ばっかり派手でも、女性に対する誠実さがなさそうな男など、相手にしない方が賢明ですよ」
連れの女性が男性に絡まれて嫌な思いをしているとして……それをずっと見ているだけで助けに行かない男性もどうかと思う。
「まぁ、僕から言わせてもらうと、ああいう中身がなさそうな男には――……」
「やめてっ!」