イジワル副社長と秘密のロマンス
写真を見つめるその表情と発せられた声からは、彼が呆れているのか、怒っているのか、見当がつかなかった。
会わなければ良かったという後悔と、会ってしまったことへの罪悪感が膨らんでいく。
「私のことを貶めたいからって、白濱さんと浮気するなんて。樹が可哀想」
「浮気なんてしてない!」
津口さんが冷やかに私に一瞥する。そのまま樹君へと顔を向ける。
「ねぇ樹、教えてあげましょうか。このあと二人がどこに行ったかを」
高揚感を堪えきれないかのように、少しだけ口角があがる。綺麗な顔がひどく歪んで見えた。
「やめてください!」
あのあと私は、一人タクシーに乗り自宅へと帰った。
けれどきっと、彼女が続けるだろう言葉はそれではない。私がどこかで白濱副社長と一晩を共にしたと嘘をつくつもりだ。
「樹ならもう気づいてたんじゃない? この女が何か隠してるって。こそこそ自分以外の男と会ってるかもって」
「待ってください! 確かに、白濱副社長と一緒にいました。でもそれは……」
「樹に大事にされてるくせに裏切るような女、これ以上傍に置いてく必要なんてない。ねぇ樹、そう思うでしょ?」
自分の声が津口さんにかき消されていく。このまま声が届かない場所へと、どす黒い何かに引きこまれていくような、そんな恐怖感に足が竦んだ。