イジワル副社長と秘密のロマンス

樹君にはちゃんと伝えたい。違うって、そうじゃないってしっかり伝えたい。

私の視線を感じたのか、黙ったまま写真を見つめていた樹君がゆっくりと顔を上げた。

彼の表情はいつもと変わらなく見えた。多少、呆れているように見えなくもないけど、怒りをあらわにされているわけではない。

それなのに、向き合った瞬間、怖くなってしまった。鼓動が重く鳴り響き出す。

思いが伝わらなかったら。拒絶されてしまったら。嫌われてしまったら。樹君が私から離れて行ってしまったら。苦しい。涙で視界が滲んでいく。

すっと、樹君が息を吸い込んだ。一歩、また一歩、歩みを進める。


「千花」


写真を持ったままの手が、そっと、私の肩に乗る。距離を縮めて、顔を覗きこんでくる。


「落ち着いて」


発せられた声も瞳も、穏やかさと優しさと、柔らかな温もりを含んでいた。

唇を引き結びながら溢れそうになっていた涙を乱暴に拭った私を見て、樹君が口角を上げる。苦笑いしている。


「千花は色仕掛けで男を手玉に取れるほど、器用じゃない。男慣れもしてない。しかも相手はあの白濱さん。どう考えても、手の平で転がされるのは千花の方」


樹君は私の肩に触れたまま、肩越しに津口さんへと顔を向ける。


「俺はそう思うけど?」

「樹が見えてないだけかもしれないじゃない。実際、その女がどんな人間なのか」

「見えてないね……それは津口の方じゃないの? 千花は誰かと違って堂々と嘘をつき続けられるタイプではないし、白濱さんも仕事に対してはけっこう誠実だし頑固でもあるから、人の意見に簡単に左右されたりしないし」


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