イジワル副社長と秘密のロマンス
「……なんでそんな顔をするのよ!……どうしてその子なの?……どうして……ねぇ、どうして私じゃないの」
金切り声が涙声に変わっていく。その場に崩れ落ち項垂れた津口さんから、小さな嗚咽が聞こえ始めた。
デスクに置かれていた電話が鳴った。樹君が手を伸ばし、それを受けた。一言二言言葉を発したあと、目を大きくさせる。
「良いよ。そのまま通して」
静かに受話器を元の位置に戻し、楽しそうに笑みを浮かべる。
「気持ち悪いくらいにタイミングが良いんだけど」
その言葉にまさかという思いが込み上げてくる。私も津口さんも星森さんも同じ予感を抱いたのだろう。みんなの視線が自然と副社長室の扉へと集まっていく。
戸口に一番近い場所にいた星森さんが遠ざかる様に後退した時、コンコンコンと軽やかにノックされた。返事を待たずにゆっくりと扉が開けられていく。
「どうもどうもー。俺の熱い思いと約束の品を持って参りました。千花ちゃんいるー?……って、あれ? 俺もしかしてタイミング悪い?」
ムーンライトホテルのロゴが入った手提げ袋を両手に下げて、能天気さ全開の白濱副社長が姿を現した。
しかし、室内の様子に気付いた途端、その表情が一変する。頬を引きつらせた。