イジワル副社長と秘密のロマンス


「そのぬいぐるみにも負けないくらいに、俺の愛がたっぷり詰まってるから、受け取ってよ」


意味ありげな口調でそう言われ、樹君がむっと顔をしかめた。

そのままの顔で私をちらりと見てから、樹君は白濱副社長に手を伸ばす。「俺の愛がたっぷりとか、気持ち悪いんだけど」とぼやきながら、手提げ袋を受け取った。

嫌そうに袋の中へ視線を落として数秒後、樹君が表情を変える。口元に微かな笑みを浮かべ、心なしか瞳を輝かせながら、中身を取り出す。

出てきたのは、クリアファイルだった。樹君はそこに挟み込まれている紙を手早く取り出し、一枚一枚目を通していく。


「……企画書?」

「そうだよ」


見え隠れする記載内容から思わず呟くと、白濱副社長が私に頷きかけてくる。


「今回のイベント、うちがAquaNextに食われているような気がして、こっちももう少し何か打ち出したかったんだけど、その何かが出てこなくて……でも、千花ちゃんのおかげで閃いた」


私のおかげと言われても、心当たりなど全くない。戸惑っていると、白濱副社長が黒ネコの鼻を指先でちょんと突いた。


「これをね、うちで式を挙げる方々への特典の原型にさせてもらえたらなって。AquaNextのタキシードやドレスを着てくださった新郎新婦には、同じものをぬいぐるみにも着せてみたりしてもいい。あわせて夏の新作からも何着か使わせてもらって、選べるバリエーションを増やしてみたり。もしくは着せ替えができるようにしても」


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