イジワル副社長と秘密のロマンス
樹君を悪く言わないでほしい。
私が困っていることに気づいたら、すぐに助けに来てくれる。
……今でもきっと、彼はそうすると思う。
樹君はあなたとは違う。
突然大声を出し、話を遮った私に心底驚いたらしく、少しの間、袴田さんは顔を強張らせたまま、こちらを呆然と見つめていた。
「……もうやめてください。そういうの聞きたくないです」
絞り出すようにそれだけ言って、視線を自分の膝の上に落とした。
「そうですか。それは失礼しました」
やや間を置いてから淡々とした声が返ってきて、それから私たちの間に沈黙が落ちた。
顔をあげぬまま、こっそり、ため息を吐く。
横川夫妻と一緒のディナーだと楽しみにしていたのに、そうじゃなかったこと。
袴田さんについていけなくて、正直、気疲れしていること。
樹君と再会出来きたことで一気に気分が上昇し、彼女がいると知って急降下したこと。
いろいろあって疲れてしまった。もう帰りたい。
テーブルに置きっ放しだった自分の携帯を掴み取り、時刻を確認する。
「……あと30分ですね。三枝さん、まだ食べますか?」
袴田さんも私と同じように、腕時計で時間を確認していた。