イジワル副社長と秘密のロマンス
樹君は手に持っていた企画書を少し持ち上げて見せてから、絨毯に崩れ落ちた格好のまま黙り込んでいる津口さんを流し見た。
「いろいろ話したいことがあるからって」
棘を含んだ言い方に、無表情だった津口さんゆっくり顔をあげる。怯えや怒りや悲しみがないまぜになった瞳で樹君を見ている。
「はい。分かりました」
対して、星森さんは少しだけ安堵した表情を浮かべると、しっかりと頭を下げ、足早に副社長室を出て行った。
「可菜美もさぁ。藤城弟に執着しすぎだからね。この男、見た目と性格からは想像できないけど、実はロマンチストみたいだよ。だって好きな女にお手製のぬいぐるみをプレゼントしちゃうんだよ?」
津口さんの視線が自分の手元へと移動したことに気が付けば、ぞくりと背筋が寒くなった。切なさを強く纏っていた瞳が、徐々に、怒りの色を濃くさせていったからだ。
「ニヤニヤしながら作ったかもしれないんだよ? しかも中には――」
「ちょっと!」
「あはは。焦ってる焦ってる」
津口さんの狂気さに耐えられなくなり視線を外したその瞬間、何かが私にぶつかってきた。衝撃に耐えきれず、その場に尻餅をつく。