イジワル副社長と秘密のロマンス
ハッとし力を弱めたけれど、相手の力は弱まることはなく……次の瞬間、先ほどよりもはっきりとした音が響き渡った。
布が裂けるだけでなく、ぴったりと縫い合わされてあった所も切れてしまったらしい。勢いを殺せず、私はまた尻餅をつく。
津口さんの手には黒ネコ。私の手には白ウサギ。
手と手が離れてしまったことに愕然とする私のもとに、ふわふわと白い綿が降り落ちてくる。
白の中で何かが光を反射した。私の膝の上へと落ちてくる。
「……えっ?」
それは指輪だった。
しなやかなカーブを描いたアームのセンターで、粒の大きなダイヤモンドが存在感を放っている。その両端には小粒のダイヤモンドが散りばめられていて、ピンク色も含まれているため可愛らしくもある。
綿と共に、この指輪は黒ネコの身体の中から落ちてきた。状況から考えてそういうことになる。
黒ネコの中に指輪を隠すことが出来たのは、ふたりだけ。
けれど白濱副社長にそんなことをする理由がない。だとしたらやっぱり、考えられる人物は樹君しかいない。
ぬいぐるみを持ってきて欲しいという言葉の裏側にも、この指輪が隠れていたとしたら……。
手の中に指輪を閉じ込めて胸元へと引き寄せれば、樹君への愛しさが込み上げてくる。