イジワル副社長と秘密のロマンス
幕間、
高校生の俺。そして未来へ。
「ありがとうございました」
頭を下げると、車のトランクから俺のスーツケースを下ろしていた年配の男性が品のある笑みを浮かべた。
「いえ。良いんですよ。これは私が望んでしたことですから」
彼は田代さん。祖母ちゃんのお抱え運転手だ。
ぱたりとトランクを閉めると同時に、門扉の開閉音が高く響いた。続けて、慌ただしい足音が近づいてくる。
「樹! お前、こっちに来たのか!」
「今年もよろしく」
軽く頭を下げると、駆け寄ってきた昴じいさんは眉毛をハの字にさせながら頭をかいた。
「……うん。まぁいいか。来ちゃったもんは仕方がないよな。樹のことは置いといて、田代、お前は大丈夫なのか? 姉ちゃんにどやされるぞ」
昴じいさんと田代さんは古くからの友人である。昴じいさんが上京した時に、仲良くつるむ姿を度々目にしている。
「これから坊ちゃんは忙しくなる身だ。毎年、とても良い顔をして昴の所から戻ってくることも知っているからこそ、したいようにさせてあげたいと思ってしまったよ」
穏やかな顔で俺を見つめる田代さんの背を、昴じいさんが涙目になりながらバシバシと叩いた。どうやら感激しているらしい。
「田代お前……樹、忘れるなよ。姉ちゃんの機嫌を損ねて田代がクビになったとしたら、お前がいつか雇い戻してやるんだからな」