イジワル副社長と秘密のロマンス

熱く言葉を並べる昴じいさんとは対照的に、田代さんは「それはありがたい」とひだまりのような笑みを浮かべる。


「それでは、私は東京に戻りますね」

「おいおい。茶でも飲んで行けよ」

「一応勤務中ですから。それはまた今度に」


田代さんは軽い足取りで車へと戻っていく。短いクラクションが鳴らされたあと、車は牧田家の門前を静かに離れて行った。

昴じいさんと顔を見合わせてから、どちらからともなく歩き出す。からからとキャリーバッグの音が響いた。


「また一段と大人びたんじゃないか?」

「そう?」

「あぁ。どうだ? 新天地は」

「普通」

「そうか」


門を閉めると、玄関の扉が開いた。そこからユメが飛び出してくる。

続いて出てきた朝子さんが俺に向かって手を振り、あっという間に駆けてきたユメが俺の周りを飛び跳ねる。


「……でもなんだ……なんとなくだが、お前は今年もここに来るような気がしてたよ。でもそれも最後かもしれないな。しっかり楽しめよ?」


今年がここで過ごせる最後の夏。認めたくないけど、たぶんその通りになると思う。

ユメを撫でていた手を止め、軽く息を吐く。


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