イジワル副社長と秘密のロマンス

もうすぐ19時30分になる。ブッフェは時間制なので、この席に座っていられるのはあと30分だけである。

無意識に樹君の姿を探してしまった自分に苦さを覚えながら、私はゆっくりと首を振った。


「いえ。大丈夫です……私、もうそろそろ失礼しようかな」


今夜は実家に帰る予定である。帰りに何かお酒を買って帰ろう。軽く酔いながら、おつまみ食べて、ソファーでうだうだしよう。


「とりあえず、椿たちに早く戻ってくるよう電話しますね」


今すぐ席を立って店を出てしまってもいいけど、またいつこちらに帰って来られるか分からない。椿たちに別れの挨拶くらいしておきたい。椿のお腹も触っておきたい。


「三枝さん、待ってください」


携帯を操作し始めた私を、袴田さんが強い口調で制止した。


「連絡する必要はありません」

「え?」


言っている意味が分からなくて、眉根が寄っていく。

彼は無表情のままでその理由を口にした。


「孝介くんたちはもうこのホテルにいませんから」

「……えっ?……ホテルにいない、って」

「はい。僕が途中で帰ってもらうようにあらかじめ頼んでおいたんです」



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