イジワル副社長と秘密のロマンス
何も答えぬまま視線を上げ、眩い日差しに目を細めれば、会いたい人の顔が脳裏に浮かんだ。
切なさを纏ったいつもとは違う夏が、始まった。
中学を卒業と同時に、俺の生活の拠点はニューヨークへと移動した。
祖母が創り上げたアパレルブランド、AquaNextが海外へ進出し、その支社を俺の父が任されることになったためだ。
両親からそれを知らされたのは、去年の夏。俺が東京に戻ったその日だった。
と同時に、俺たち兄弟もニューヨークに連れて行くという、意向を聞かされることとなる。
兄はそちらの大学に進学する気でいたので異論はなかったけれど、俺は違う。反発した。なんとか日本に残れないかと必死に考えた。
昴じいさんの家に居候し、そこから通える高校にでも行ければ最高だと考えていたけれど……徐々に思いは揺らいでいく。
ゆくゆくは、祖母が父ではなく兄と俺に自分の跡を継がせたいと考えていることを聞かされたからだ。
俺は祖母の仕事に興味を持っていた。
小学生の頃、兄と一緒に何度か祖母の仕事場に出入りしたことがあった。デザイン画を見て胸を高鳴らせ、仕事人としての祖母の顔に尊敬の念を抱いた。
それからも俺は何度も祖母の仕事に触れた。