イジワル副社長と秘密のロマンス

新作の商品を見せてもらえる機会を得たり、新たにできた店舗に連れて行ってもらったり、撮影の現場に立ち会わせてもらったり。

撮影に何度か引っ張り出されたりしたことだけは嫌だったけれど、それ以外は有意義な時間だった。

祖母の熱い思いが、目にしたすべてに込められていた。

そんな大切な居場所を、いずれ俺たちに託したいと言われた瞬間、それに応えたいと強く思った自分がいたのだ。

だから俺は、祖母や親の意見に従うことに決めた。

ニューヨークの高校への編入は10月からだ。中学を卒業してから少し間が空いてしまうけれど、のんびりなどしていられない。

決めたからには、徹底的にやる。祖母のためにも、自分のためにも、一秒だって時間を無駄にしたくない。

すぐにニューヨークへと場を移し、強い思いに突き動かされるように準備を積み重ねてきていたのだけれど……7月も中旬になったころ、気持ちが止まった。

千花がそろそろ夏休みを迎えると思ったら、日本に帰りたくなってしまったのだ。

高校生活が始まり落ち着いてきたら、俺は兄と共に、父が店長を務めるショップを手伝うことにもなっていた。

だから来年の俺には夏休みなど、ましてやまとまった休みすらないかもしれない。


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