イジワル副社長と秘密のロマンス
だとしたら、ここで会いに行かないと、千花にはもう会えなくなってしまう。
そこでまた、俺は激しい感情に突き動かされることになる。
新生活が始まる前の一ヶ月間だけ、日本に帰りたいと俺は両親に申し出た。
理由を聞かれたけれど、もちろん千花のことは言わない。
昴じいさんのところでゆっくりしたいのだと言えば、両親は今までの御礼も兼ねて行って来なさいと、快諾してくれた。
問題なく物事が進んだことにホッとしたのも束の間、日本に戻る準備を始めた俺に母が困り顔で言った。
「お祖母ちゃんが、日本に帰ってくるなら私の所に来なさいだって」と。
俺が今年の夏も牧田夫妻の所で過ごしたがっていると、母は祖母経由で昴じいさんに連絡を入れようとしたらしい。
しかしそのことを話すと、それなら一か月の間、俺を自分の傍においていろいろ学ばせたいと祖母が言いだしたのだ。もちろん暇をみて、昴じいさんの所にも連れて行くとも。
俺は「嫌だ」と言い張った。それでは日本に帰る意味すらなくなってしまう。俺は千花に会いたい。一緒に散歩をしたり、駅前を歩いたり、同じ景色を見ながらたくさん話がしたいのだ。
けれど、どれだけ嫌だと主張しても、母は「お祖母ちゃん。言い出したら聞かないから」と言葉を濁し、難しい顔をするだけだった。