イジワル副社長と秘密のロマンス
ハッとし振り返れば、30メートルくらい後方に、人の姿が見えた。
「千花」
彼女は足を止め、苦しそうに肩で息を弾ませていたけど、息を整えることさえもどかしいかのように、またすぐに走り出した。
彼女の足音と重なって、俺の鼓動がはやりだす。
「いまさっき……朝子さんから樹くんが来てるって……連絡もらって。しかも……散歩に出たって」
連絡をもらってすぐ、千花が家を飛び出してきてのだと知れば、愛しさが込み上げてくる。
彼女が俺の前で足を止めた。見上げてくるその顔は変わらない。やっぱり可愛い。
「久しぶり、千花」
話しかけた瞬間、くしゃりと表情が崩れた。そして俺の胸元に暖かな衝撃が走った。
千花が俺に抱きついてきた。
「樹くん」
涙交じりの声で俺の名を呼ぶ。会いたかった。そんな響きに、胸が熱くなる。
同じだと伝えたくて、俺は力を込めて彼女の身体を抱き締め返した。
その数秒後、千花が俺の腕の中で身体を強張らせた。視線を泳がせ始める。
「……あっ……あの……突然、ごめんね」
顔を真っ赤にさせて俺と距離を取ろうとする。なかなか目を合わせてくれない。