イジワル副社長と秘密のロマンス
「自分から抱きついといて、恥ずかしがらないでよ」
「だって。今年は来れるかどうかわからないって聞いてたから……嬉しくて、つい」
彼女の言葉に胸が苦しくなる。来て良かったと、素直に思った。
完全に俺の腕の中から出てもまだ恥ずかしがっている彼女に苦笑し、俺はゆっくりと歩き出した。
「来るよ……千花に会いたいから」
風に言葉を乗せると、背後で千花が「えっ」と呟いた。
少し歩いても、追いかけてくる気配がない。くるりと振り返り見て、手にしているリードを少し持ち上げてみせた。
「行くの? 行かないの?」
タイミングよくユメも鳴く。赤い顔に愛らしい笑みを浮かべて、千花が走りだした。
「もちろん行きます!」
彼女が追いつくのを待って、一緒に並んで歩き出す。
「樹君。今年も夏祭りに行く?」
「どっちでもいい」
「じゃあ、行こうね。あのね、他にもね、樹君と一緒に行きたいところ、たくさんあるんだぁ」
千花は笑顔のままで「楽しみだなぁ」と口にする。
「それ、一つ一つ聞かせて。取捨選択するから」
「えっ。それって、全部却下も有り得るってこと?」
「当然。俺、のんびりしたいし」