イジワル副社長と秘密のロマンス
少し迷ってから、「ねぇ」と呼びかけた。遠くにある二つの背中を見ていた瞳が自分へと向けられる。
「今年の夏、俺たちもなってみる?」
リードを持ってない方の手で、彼女を捕まえる。
「彼氏彼女に」
そっと繋ぎ合わせた手が、ぴくりと反応した。
「わ、わ、私が……樹君の、彼女に?」
「そう。俺が千花の彼氏に。その方が、断然楽しい夏になると思わない?」
少なくとも、俺にとってはドキドキする夏になる。思わず笑みを浮かべれば、千花が目を大きくさせたまま、また顔を赤くした。
「……でも……私、男の子と付き合ったことないから……彼女とか言われても、どうしたらいいのか分からないし……私は楽しくても、樹君が楽しいと思ってくれるか不安だし……」
それは俺も同じ。自分はもうすでに楽しい夏休みになっているけど、千花がどう感じるかはわからない。俺だって不安だ。
それでも、誰よりも千花の傍にいるための口実が欲しい。
明らかに混乱している千花に対して、俺は目を眇めた。
「嫌なの?」
「嫌じゃないよ!」