イジワル副社長と秘密のロマンス

言いながら、津口は反抗的に顔をそらす。俺は盛大にため息を吐いた。

今日は俺たち兄弟の顔見せも兼ね、祖母と共に取引先へ訪問していたのだけれど、その帰り道、俺たちの前に津口がひょっこり現れたのだ。

彼女は以前、兄から今日の仕事の予定を聞いたらしい。ちょうどその日、同じ場所で、自分も仕事があることに気付いた彼女は、仕事終わりに合流できるように、こまめに兄と連絡を取り続けていたようだった。

津口は小学校からの知り合い。子供の頃からモデル活動を続けている。AquaNextにもモデルとしてかかわっているため、よく顔を合わせている。


「ねぇ。今夜、樹の部屋に泊めてくれてもいいんだよ?」

「何言ってんの? 泊めるわけないでしょ」

「いじわるっ」


津口のことは放っておくことにして、俺は歩きながら一階ロビーを見回した。

ホテル中二階にあるレストランで、今から夕食をとる予定なのだけれど、兄の姿も、祖母の秘書である宝さんの姿も見つけることができなかった。

本日最後の訪問は、大口の顧客であり、祖母の友人でもある女性の所だった。


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