イジワル副社長と秘密のロマンス
最終章、
「俺と結婚してください」
仕事を終えてから、私はずっと副社長室の応接用のソファーに座っている。
星森さんがソーイングセットを貸してくれたので、取れかかっている白ウサギの腕を懸命に縫い合わせていた。
「……これでいいかな」
気をつけていたのに、腕が少し曲がってしまった。見栄えは落ちてしまったけれど、それでも、取れかかっている状態のままよりは良い。
ウサギを終えれば自然と目が向かうのは、ローテーブルの上に置いてあるロイヤルムーンホテルの手提げ袋である。
中には黒ネコが入っている。こちらは状態がひどすぎて、手を出せずにいる。
室内に戻ってきた樹君がソファーの背もたれに片手をついて、私の手元を覗きこんできた。
「ウサギ、直せた?」
「うん」
差し出したウサギを手に取り、一言。
「……30点」
「点数に納得いきません。ついでに白濱副社長のあの言葉も、やっぱり納得できません」
不貞腐れながら反論すると、樹君が笑みを浮かべる。
「そう? 俺は珍しく真っ当な意見だと思ったけど」
膨れたままの私の手の中にぬいぐるみを落とすと、樹君は私の頭をくしゃりと撫でて、自分のデスクへと歩いていく。
その後ろ姿を目で追った後、私は絨毯へと目線を落とした。