イジワル副社長と秘密のロマンス
ふたりっきりではあるし、室内はいつもの空気に戻ってはいるものの、まだそこに津口さんの温度が残っているような気がした。気持ちはまだ重いままである。
私は白ウサギを抱き寄せながら、ぼんやりと数時間前のことを思い返す。
叫ぶ津口さんの元へ社長がやってくると同時に、足音を響かせながら、津口さんのマネージャーがフロア内に飛び込んできた。
社長を呼びに行った星森さんが、樹君からの伝言だけでなく副社長室で起こっていることも話をすると、社長はすぐに津口さんのマネージャーへと電話を入れた。そして津口さんを迎えに社の近くまで来ていたマネージャーが、慌ててやってきたのだ。
社長がみんなの前で「今回のことと、今後のうちとの契約について……近いうちにこちらから話をしに行きます」と告げた。
マネージャーは顔面蒼白になりながら何度も何度も頭を下げ、足取りがおぼつかない津口さんを引きつれて、社を出て行ったのだった。
樹君と共に副社長室に戻った後も、私はしばらくの間、衝撃から抜けられずにいた。
それでも、気持ちを立て直すことができたのは、樹くんがいてくれたからだ。
ぼんやりしている私に、彼がコーヒーを入れてきてくれた。
本来ならばその立場にあるのは私だ。