イジワル副社長と秘密のロマンス
「僕はまだ下の名前で呼ばれたことがないのに、あなたに呼ばれるのがふさわしいのは、こんないけ好かない奴じゃなくて僕の方なのに……僕はこんなにもあなたのことを思ってるのに……こんなに好きなのに」
異様な迫力で近づいてくる袴田さんにはもう恐怖しか感じない。
袴田さんが私に手を伸ばしてきた。触られるのは嫌なのに、足が竦んで動けない。
「お前、見苦しい」
冷たい声に、袴田さんは大きく振り返った。
「お前って言うな! 俺はな、和菓子屋はかまだの副社長だぞ! お前とは違うんだぞ! 分かったら、態度を改めろ! 偉そうにするな!」
今までモゴモゴとしか言い返せなかった人と同一人物とは思えないほどの音量で、袴田さんが怒鳴り返した。キレてしまったらしい。
それに対し、樹君はほんの一瞬キョトンとしただけだった。すぐに挑発じみた笑みを口元に浮かべながら、階段を降り始める。
「副社長だから偉いの? それともあんたが偉いの? どこらへんが偉いのかよく分かんないから、もうちょっと違う言葉で説明してよ。俺と何がどう違うのかって」
「うっ、うるさい、黙れ!」
「納得できれば黙るけど?」