イジワル副社長と秘密のロマンス

段差があることに気付かず、わずかな段差にひっかかり、足がもつれてしまった。

小さく叫びながら前のめりになった私は、横から伸びてきた手に……樹君に助けられた。本日二回目である。

私の身体を支えたまま、樹君が呆れたようにため息を吐いた。


「落ちそうになったり、転びそうになったり、俺の心臓止めるつもり?」

「そっ、そんなつもりは」

「危なっかしいから、しっかりしてよね」


注意されているというのに、反省するどころか、樹君の手が自分に触れていることや近くなった距離の方に意識が向いてしまう。ドキドキしてしまっている自分が恥ずかしい。


「……いいや。心臓に悪いから、前もって支えとくことにする」

「支えるって?」


どういう意味かと疑問を持ったその瞬間、私の肩に彼の手が乗った。そのまま軽く抱き寄せられ、体の半分が彼と密着する。


「こういうこと」


樹君が私の耳元でからかい交じりに囁いてきた。くすぐったいし、おまけに彼の唇が頬を掠めたような感触もあり、身体全部が熱くなる。

恋愛の経験が少ない自分は、こんな時どう反応したら良いのか分からない。大人の対応などできるはずもなく、頭の中はパニックである。だんだんと息苦しくもなってきた。


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