イジワル副社長と秘密のロマンス

袴田さんがそこに絶対いないとは言い切れない気がしたからだ。


横川夫妻に会うことをひたすら楽しみにしていたのに……電車を降りてから煮え湯を飲まされた気持ちにさせられるまで、十分もかからなかった。

駅前で迎えてくれたのは夫妻ともう一人、私を今悩ませている袴田さんだった。

子供の頃からずっと、”袴田”という名前は知っていた。何度も耳にしたし、何度も口にした。

けれどそれは彼自身ではなく、彼の家が営んでいる和菓子店を指して出た言葉だった。

“和菓子屋 はかまだ”といえば、地元では超有名な老舗店であり、今は亡き祖母も、はかまだのかりんとう饅頭が好きでよく買っていたのだ。

しかしこれまでの人生の中で、袴田さんその人との接点が一度もなかったわけではない。

それは大人になってから……二年前、孝介先輩と椿の結婚式の日のことだ。

椿は大学生になってから“和菓子屋 はかまだ”でアルバイトをしていて、そして不動産関係の会社に就職した孝介さんは仕事で袴田さんと繋がった。

孝介先輩と袴田さんは同い年なこともあり、プライベートでも仲良くすることもあったみたいで、彼も二人の結婚式に呼ばれたのだ。


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