イジワル副社長と秘密のロマンス
結婚式当日、孝介先輩の上司の男性三人と話をしていると、袴田さんが男性たちに呼びこまれる形で会話の輪の中に加わった。
その時私は自分の目の前に現れた、坊ちゃん刈りで、眼鏡をかけていて、猫背で、ヒールを履いた自分とさして背丈の変わらない男性を、あの“和菓子屋 はかまだ”の袴田さんなのだと認識した。
笑みを浮かべ初めましてと話しかけたけど、彼は忙しなく目を泳がせているだけで、何の言葉も返してこなかった。
だから私もそれ以上、袴田さんには話しかけなかった。
その場にいた男性たちとはかりんとう饅頭の話で盛り上がったけど、彼とは何一つ言葉を交わさなかったはずだ。
私は袴田さんのことを、今日顔を合わせるまでずっと忘れていたくらいである。
「それにしても、袴田さん必死だよね。千花に自分のことを知ってもらいたい、気に入られたいっていうのがすごく伝わってくる」
しみじみと椿がそんなことを言う。鏡の中に写る自分の口元が引きつった。
「そうかな。“和菓子屋 はかまだ”がどれだけすごいかっていう店自慢と、俺は今副社長だっていう自慢と、あれはいずれ俺の店になるんだっていう自慢と……とにかく、自慢してるようにしか思えなかったけど」