イジワル副社長と秘密のロマンス

樹君はため息を吐きつつ携帯を確認して……もう一度ため息を吐いた。


「ごめん、兄貴だ。ちょっとだけ待ってて」


顔を熱くしたままこくりと頷き返せば、樹君が電話を受けた。


「なんか用? くだらないことでかけてきたなら、今すぐ切るけど」


普段以上に切れ味の鋭い声で、樹君がお兄さんに斬りかかっていく。

樹君のお兄さんってどんな人だろうとか思いを巡らせてみたり、電話をかけてきた相手が津口可菜美じゃなかったことにホッとしたり、この後私たちはどうなるんだろうとか、ぼんやり考えていると、樹君に「千花」と呼びかけられた。


「ごめん。呼び出しくらった。今から兄貴の部屋で、今後の打ち合わせするって」

「打ち合わせ? 仕事の?」

「そう。いろいろ詰めなきゃいけないことあってさ」

「大変だね……で、なんのお仕事? もうそろそろ教えてよ」


ちょっぴり残念に思ってしまったことを笑顔の裏に隠して、再度問いかけてみたけれど、やっぱり樹君は何の言葉も返してくれなかった。

彼は横目で私を見てニヤリと笑い、携帯を操作し始めた。


「俺。休んでるとこ悪いんだけど、車をだしてもらえる?……俺じゃなくて、家まで送ってもらいたい人がいるんだよね……そう……今、ホテルのバーにいる……有難う。よろしく」


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