イジワル副社長と秘密のロマンス
「ちょ、ちょっと待って……え? どういうこと? 樹君って何者?」
混乱している私の背中を樹君の手がとんっと押した。その力で、一歩二歩と足が前に進んでいく。
後ろを振り返ると、彼が不敵な笑みを浮かべ人差し指を唇の前にかざした。
「今は秘密」
やっぱり何も教えてくれない。
不満と混乱の渦に飲み込まれそうになる私に向かって、樹君が言葉を追加する。
「きっと、もうすぐ分かるから」
今知りたいのはやまやまだけど、樹君がそう言うならもうすぐ分かるときがくるのだろう。
「樹君、すぐに会えるよね?」
「大丈夫。会えるよ、必ず」
確認するように話しかければ、力強い声が返ってきた。
男性に再び「さぁ、行きましょう」と促され、私はぎこちなく頷き返す。
もう一度樹君をちらりと見てから、男性の後について歩き出したのだった。