イジワル副社長と秘密のロマンス
2章、
副社長として、秘書として、1
「またのご来店をお待ちしております」
ゆっくりとお辞儀をし、店舗の外で常連のお客様のお見送りをした後、私はさりげなく通りを見渡し、そしてお店の中へと戻った。
もうすぐ正午になろうとしているこの時分に、忙しく働いているだろう樹君が来店するはずなんかないと頭では分かっている。
分かっているのに……ついついその姿を探してしまう。
それはもちろん、あの日彼が、店に冷やかしに行こうかなと言っていたからだ。
樹君と再会してから、一か月が経とうとしている。
彼と別れた後、車に詳しくない私でも知っている高級外車で自宅前まで送ってもらった。
我慢できず、樹君はいったい何者なんですかと、運転手の男性に聞いてしまったけれど、彼は曖昧に笑うだけで、何も教えてはくれなかった。
東京に戻れば、すぐに忙しない日常が戻ってきた。
けれど、ふとした瞬間に樹君を思い出し、私はもしかしたらとんでもない人と付き合ってしまったのではないだろうかと、そんな思いに駆られている。
本当に連絡をくれるのか。また会えるのか。本当に私は樹君の彼女になれたのか。実はからかわれただけなんじゃないか、とか。
最初はそんな不安もあったけれど、それらはすぐに安堵へとすり替わっていった。