イジワル副社長と秘密のロマンス

まさかの事態に、軽く頭が混乱する。


「この前、社長がうちに視察に来たときのことを覚えてる?」

「はい。二ヶ月くらい前ですよね?」


思い返しながら補足すれば、店長がにこやかに首肯した。

AquaNextの社長は、デザイナーの“ナツコ マキダ”として有名な、70代後半の女性である。

社長はお付きの人をぞろぞろとひきつれて、約二ヶ月ほど前にこのお店に足を運んでいる。

ここは本社から比較的近い店舗でもあるので、社長は年に二回ほど足を運ばれる。

店長とのやりとりに笑みを浮かべることはあっても、自分が社長と言葉を交わすことなどほとんどなかった。

なかったのだが……なんと前回、私は社長と話す機会を得ることが出来た。社長から話しかけられ、三十分ほど話しをしたのだ。

がちがちに緊張してしまい、話の内容は断片的にしか覚えていないけれど、社長の優しい言葉と穏やかで澄んだ瞳は、強く印象に残っている。


「いつもはね、店の状況とかを見ることが目的なんだけど……実はこの前の視察はそれだけじゃなくて、別の意味合いもあったらしいのよ」

「別の意味合い、ですか?」

「従業員を見て回って、社長自ら本社に秘書として連れて行けそうな子を探していたみたい。三枝さん、心当たりない? 本社勤務について何か聞かれたりしなかった?」



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