イジワル副社長と秘密のロマンス

心当たりは大ありである。

本社勤務のことについても、私は社長から聞かれている。

店員としての仕事も好きだけれど、もっと深くまた違う角度からAquaNextに関わってみたいという気持ちも少なからず持っていたため……恐れ多くも、本社でもいろんな仕事を経験しスキルアップしたいとか、そんなことを言った記憶がある。

そして“秘書”についての話もした。

大学生の時に資格を取ることに躍起になっていた時があり、その時に秘書技能検定の2級に合格しているから……それも素直に話している。

店長がため息を吐いた。悲しそうな顔で、わずかに肩を落とす。


「三枝さんを持って行かれるのは店としては痛いけど……一番大変なのは三枝さんよね。仕事もたくさん覚えないといけない上に、上層部が新体制になるからいろいろ大変だと思うし」


手を差し出され、私もすぐにそれに応じる。


「これからも頑張ってね!」


労いの握手に、目頭が熱くなる。

正直、突然の人事異動にまだ心は追い付いていなくて、驚きや大変なことになったという気持ちでいっぱいである。

けれど、そんな中にもしっかりと、頑張らなくちゃという思いが胸の中で息づき始めている。徐々に強くなっていく。


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