イジワル副社長と秘密のロマンス
そこからビルの中へと足を踏み入れれば、エレベーターの前に同年齢くらいの女性が一人立っていた。エレベーターが降りてくるのを待っているようだった。
私も彼女の斜め後ろまで進み、足を止めた。自分と同じようにグレー系のスーツに身を包み、髪を後ろで束ねているのを見て、なんとなく親近感がわいてしまう。
到着したエレベーターに乗り込み6階のボタンを押すと、先に乗り込んだ彼女が「あっ」と小さな声を上げた。
「もしかして、AquaNextの方ですか?」
続けて、弾んだ声でそんなことを問いかけられた。
このビルの3階以上はオフィスが入っている。
3階から5階には様々な業種の会社がいくつも入っているけれど、6階より上はAquaNextだ。
私は彼女と向き合い、笑みを返した。
「はい。そうです……あっ、何階ですか?」
上昇し始めてしまったため慌てて行き先の階を聞くと、女性はにこにこ顔のまま首を横にふった。
「私も6階です! 今日から本社勤務なんです! 星森亜紀(ほしむらあき)と言います。これからよろしくお願いいたします!」
勢いよく頭を下げられてしまい、私は慌てて両手を振って否定した。